私は今、学校一のイケメンと壁との間に挟まれている。

つまり、これは壁ドンというやつだ。

心臓がバクバクと踊る中、彼の綺麗な顔が近付いてくる。

あぁ、なんて王道でオイシイ萌えシチュエーション……!


『お前、俺から逃げられると思ってんの?』


お、思ってません! むしろ逃げたくありません!

心の中でそう叫びながら、目を見開いて彼を見上げる。

すると、彼の表情がふっと緩み、色っぽい微笑みに変化した。


『逃がすつもりもないけどな』


そうして頬に手を添えられたかと思うと、伏し目がちな瞳が近付いて、かすかに吐息が降りかかって……




「きゃぁぁ~!! あ……あれ?」


がばっと勢い良く飛び起きた私の目の前には、当然イケメンなんていなくて。

カーテンの隙間から入り込む春の日差しが、ベッドを温かく照らすだけ。

そして、枕元にあるのは寝る直前まで読んでいた恋愛小説。


「ま、また非現実的な夢を……」


こんな私にあんな状況が訪れるわけないっていうのに!

呆れと恥ずかしさから、私は両手で顔を覆った。