だが、琉依と菜乃が抱き合っている場面を見る数時間前までは、そんなことは考えていなかった。



祭りの数日前、バイトに菜乃が来ることになって、気まずさはあったものの俺にとっては好都合だった。

あの日の、保健室でのことを謝りたい。そう思っていたから。


菜乃は不機嫌になることもなく、むしろよく笑ってくれて、単純に嬉しかった。

バイトが終わった後、メイクが崩れていることに気付いたが……

そんな少しマヌケな顔も可愛いと思ってしまった時に、これはヤバいと自覚した。

あー俺、本気で落ちてんなって。


目の前に彼女の顔があれば、当然キスしたい衝動にかられる。

このまま、唇を奪ってしまいたい──。


一瞬、そんな欲に負けそうになったものの、大きく見開いた瞳と、息も止まってんじゃないかと思うような菜乃を見て冷静になった。

コイツはたぶん初めてなんだよな……。

今キスしたって、混乱させるだけだろ。


俺もこんなこと初めてなんだ。本気で誰かを好きになったのは。

だから、どうしたらいいかわかんねぇ。

ただ、今までの女にしてきたのと同じようにはしたくない。