午後7時50分。

俺は人波を掻き分け、約束の場所に向かって走っていた。

想定外の出来事で、約束よりも別のことを優先してしまった。

申し訳なさを感じながら、頭の中には菜乃の顔を思い浮かべる。


祭りに誘われた時、もし俺が行くことでアイツが喜ぶなら、それもいいかと思った。

琉依も行くって聞いて、ちょっとした危機も感じたし。

だから、早くアイツのもとにたどり着きたい。


……まぁでも、心配はいらないか。

藍原も一緒だと言っていたし、きっと三人で楽しんでいるだろう。


そう、安易に考えていたのがいけなかったのだと、すぐに後悔することになる。


待ち合わせ場所の赤い橋に着いた時、そこに菜乃達の姿はなかった。

やっぱりもうどこかへ行っているよな……と、橋を歩きながらあたりを見回した、その時。

目に飛び込んできた光景に、俺はくぎ付けになった。


──人目も気にせず、抱き合う男女がいる。


男の方は琉依だとわかるのに、時間はかからなかった。

まさか、ヤツが抱きしめているのは……。