すると、突然身体がふわりと包まれる感覚がした。

心地良い締めつけ感で顔を上げれば、目の前にあるのは白いTシャツの胸元。


──琉依くんに抱きすくめられている。

挨拶でされたような軽いハグじゃなく、優しくしっかりと守るように。

驚いて目を見開き、息を呑んだ。


「る、いく──」

「無駄なんかじゃない」


力強い声が聞こえ、抱きしめる腕にも少し力が込められる。


「きっと全部、菜乃ちゃんには必要なことだよ」


そう、かな……そっか……。

私が変われたことも、如月くんに恋をしたことも、無駄ではないか。

きっとこれは、私が成長するために通らなきゃいけない道だったんだろうね。


温かい腕の中で、そう前向きに考えてみる。

優しく諭すような彼の言葉は、慰めや同情よりも、私の心を癒してくれる気がした。


「ありがと、琉依くん……」


眼鏡の下で涙を拭ってから微笑むと、彼も穏やかな笑顔を見せた。



それからは、文ちゃんと合流して三人でお祭りを回った。

そうしている間も、連絡をよこさない如月くんのことを忘れるように、私はわざとらしいくらいはしゃぐのだった。