「そ、そんなことないよ。浴衣着るんだし、メイクも髪型もそれ相応にしただけだから」


些細な違和感を抱きながらも、「そっか……」と頷く私。


「でも文ちゃん、今日はまた一段と綺麗だよ。引き立て役で全然構わない、私」


これは嫌味でも何でもなくて、もちろん本心。

あははと笑う私を見て、文ちゃんはふっと微笑む。


「菜乃のそういうスレてないところが、皆好きになるんだろうな……」

「ん?」


小さな呟きがよく聞き取れなくて聞き返そうとすると、彼女は「なんでもない」と首を振った。


「それより、引き立て役なんて言えないよ、菜乃! 今日の主役はアンタなんだから」


そう言われてドキリとする。

もう少しで如月くんに会うんだもんね……あぁどうしよう。


「急に緊張してきた……」

「大丈夫、自信持ちなって! 菜乃だって特別可愛いもん。この浴衣姿で如月くんもイチコロよ」


自信満々に言う文ちゃんに、私は微妙な笑みを浮かべる。

イチコロだなんてことは決してないだろうけど、でも。

少しだけ“いつもと違う”って思ってもらえたらいいな……。