慌てて指で拭おうとすると、如月くんの手で遮られる。

えっ、と思った瞬間、彼の左手は私の頬をそっと包み込んだ。

──ドキン!と大きく心臓が跳ねる。


「じっとしてろ」


妙に色気がある声が間近で響き、彼の右手が目の下に触れると、無意識にピクンと肩が上がった。


「慣れないことするからだ」


呆れたように、でも柔らかな声で言われて、胸がくすぐったくなる。

如月くん、私がメイクしていることに気付いてくれたんだ。


「だ、だって……」


少しでも可愛く見せたいんだもん。

そんな本音を言えるはずもなく、口をつぐむ私。


軽く拭われている間、かなりの早さで動く心臓を感じながら目を閉じていた。

指が離されて、そっと目を開くと、思ったより近くに如月くんの顔がある。

左手は頬に添えられたまま。


……え、なに、この状況……!?

小説の中ならこの後起こることは想像がつくかもしれないけど、これは現実。

どうなるのか全然わからない。

ただ、私達の間には、甘い空気が漂っているような気がする──。