驚かせて、意地悪しすぎたか。

ナノが今にも泣き出しそうに瞳を潤ませるから、もう見ていられなくて、俺はベッドから離れた。


「現実は違うんだって忠告してやっただけだよ。妄想女の甘い甘い恋がうまくいくようにな」


目を見れないまま、バッグと眼鏡を彼女の脇に置いて嫌味なことを言うと、振り返らずに保健室を出た。



藍原を呼びに図書室へと向かう間、再び気だるい暑さにまとわれるも、頭の中はどんどん冷やされていく。

完全に冷静になると、残ったものは後悔と罪悪感だけ。


「何やってんだ俺は……」


深く吐き出したため息が、暑い空気に溶け込んでいく。


琉依に嫉妬して、アイツを怖がらせて……たぶん、傷付けた。

体調だって悪いのに、それを気遣ってもやれなかった。

自分勝手で、愚かで、どうしようもねぇな。

こんなんじゃ、琉依に持ってかれても仕方ない。


……本当、ありえねーよ。まさかこんな想いを抱くなんて。

俺がアイツを、好きになるなんて──。


「菜乃……」


無意識に口にした名前は、今までのどれよりも違う、愛おしさと苦しさを含んでいた。