「このまま一番いい青春の時期を過ぎちゃったらもったいないじゃん。生身の男にももっと免疫をつけるべきだよ」


文ちゃんの言葉がチクチクと胸に刺さるなぁ。

やっぱりこのままじゃいけないのかも、という方に天秤が傾き始める。


ふいに足を止めた文ちゃんは、突然私の顔に両手を伸ばしてくる。

目にかかるくらいの長くて厚い前髪をかき分け、眼鏡をひょいと持ち上げた。

何事かと目を丸くする私をまじまじと見つめ、彼女は独り言みたいに呟く。


「菜乃も本気出せば彼氏のひとりやふたり出来るはずなんだけどねぇ……。磨けば光るダイヤの原石みたいなもんなんだから」

「……どゆこと?」


カクリと首をかしげて問い掛けるも、文ちゃんはそれに答えず、再び眼鏡を元に戻した。


「とにかく。菜乃がアラサーになっても妄想ばっかしてたら、あたし友達やめるからね」

「そんなぁ」


見捨てられたような気分で情けない声を出す私。

アラサーだなんて十年も先のことはわからないけど、この私が妄想をやめることはないような気がする……。

いろんな意味で将来が心配になりつつ、私はスタスタと先を行く彼女を追い掛けた。