好きだからキスして何が悪い?

「きさ、らぎく……」


荒い息をする彼女の身体はやっぱり熱くて、焦燥感が募っていく。


「コイツ保健室運ぶから、藍原は職員室行って先生に伝えてくれ」

「ん、了解!」


頷いた藍原は、ナノのバッグを持ってすぐに走り出し、俺も彼女を抱き抱えて立ち上がった。

腕の中で小さな小さな悲鳴が上がる。

柔らかな重みをしっかりと抱えながら歩き始めると、何やら訴えている声が聞こえてきた。


「き、如月くん……これ、お姫様、だっこ……!」


目線を落とすと、さっきより顔を赤くしたナノが、苦しいのか困ってるのかわからない表情で、うわごとみたいに呟いている。


「そんなこと気にする余裕があるなら大丈夫だな。降ろすか」

「やっ……イヤ、です」


こんな時にも冗談を言ってしまう俺のシャツに、細い手がぎゅっとしがみついた。

その瞬間、胸の奥から何かあったかいモノがじわりと込み上げてくる。

これは……何だ?


驚きでも、喜びでもない感情。

それは、たぶん“愛しさ”──?


……いや、そんなはずがない。

こんな地味な妄想女子に、そんな感情を抱くわけがない。