好きだからキスして何が悪い?

間近で見たらメイクをしているのだとわかったが、自然なそれは彼女の顔立ちの良さを引き立てているようで。

……可愛い。

これまでのイメージを覆すくらい。

素直にそう思った。



「おい内田、マジメにやれ!」

「すいませーん監督」


まったく悪気のない内田の頭を、野崎が軽くはたく。

その声で我に返った俺は、胸の上で眼鏡を持ったまま硬直しているナノから身体を離した。


「ごめん、ふたりとも! 本番ではこんなことしないから!」


それも当たり前だっつーの!と、俺達をなだめる野崎に再び心の中でつっこんだ。


眼鏡姫のその後は。

目覚めた姫が王子に一目惚れして妄想を爆発させ、王子に毒を吐かれて撃沈して終了というオチ。

なんとか起き上がったナノだったが、その流れを確認している間も放心状態のままのように見えた。


練習が終わってもぼうっとしているナノを盗み見ながら、俺は内田達への怒りも忘れて考え込んでいた。

アイツのあの顔、どこかで見たよな……?