好きだからキスして何が悪い?

ハイ、やって!という声が聞こえてきそうな野崎の身振り手振りに、俺は嫌々ながら少しだけ身を屈めようとした。

その瞬間。


──ドンッ!

「っ!?」


誰かに背中を押され、前のめりになる。

間一髪、キスする寸前でナノの顔の横に手をついた。

っぶねー……!

誰だ、ふざけたマネすんのは!?


「わりぃ、ちょっとつまづいちまった」


後ろを振り向くと、見え見えの嘘をつき、ニヤニヤしながら謝る内田がいる。

こンのチャラ男……! その大事な商売道具(顔)ぶっ潰してやろうか?


ヒューヒューとはやし立てる奴らにも怒りが湧き上がる。

もう地味な姿を演じるのはやめて暴れようかと思いながら、体勢を立て直そうとした、その時。

すぐにキス出来そうな距離にある小さな顔を見て、俺は固まった。


眼鏡をしていない、初めて見る素顔。

大きく見開かれた二重の瞳は、やっぱりゴミが入ったのか、少し赤く潤んでいる。

肌は抜けるように白く、唇はふっくらと柔らかそうな桜色。


…………誰だ、コレ。