「あ、ごめん。もうひとつ聞きたいことがあったんだ」


くるりと振り返る琉依は、なぜか神妙な顔で言う。


「あの時、マリとは偶然会っただけなんだよね?」


──マリ。

それは中学の時、一応俺が付き合っていた元カノだ。

明るく裏表がない性格で付き合いやすいコだったが、特にこれといった思い入れがあるわけじゃない。


あの時は、バイト帰りに久々に寄り道したら、マリの方から話し掛けてきたんだ。

俺が変わった姿に驚いたらしく、『なにそのカッコ!?』って大笑いされたっけ。

そう、だから本当にただ偶然会っただけだ。


「当たり前だろ。わざわざ連絡取って会ったりなんかするか。何の用もねーよ」

「……そっか。ならよかった」


そう言うとにこりと笑って、「じゃ!」と今度こそ屋上から出ていってしまった。


「何なんだ、アイツ……」


どうしてマリのことを聞いてくるのかわからない。

というか、今の会話全部が謎だ。今頃時差ボケか?

ひとり残された俺は、頭にハテナマークを浮かべまくる。


ま、どうせたいしたことじゃないよな……。

特に気にしないことにして、俺は再びぬるいコンクリートの上に座り込むのだった。