渡そうとした手を一瞬引っ込め、咄嗟にサッと裏返して差し出した。

イケメン武将がずらっと描かれた表紙をがっつり見られるより、まだこっちの方がいい!


今度は違う意味でドキドキしながら参考書を手渡し、会計が終わるのを待つ。

紙袋に入れてくれる、長い指が綺麗な手を見つめていると、彼がボソッと何かを呟いた。


「……じょし……」


……ん? ジョシ?

私はこんなだけど、一応女子ってのは見ればわかるはずですけど。

じゃなくて、助詞って言ったのかな? いや、それじゃまったく意味がわからないよね。


ソウくんが呟いた言葉を聞き取れず、少し首をかしげつつ彼を見上げる。すると。


「ありがとうございます。またお越しください」


わずかに口角が上がり、クールな顔立ちがほんの少し優しい表情になったのを見て、キュンと胸が鳴った。

こ、この微笑みの威力もハンパじゃないです……! 王子様と呼ぶに相応しい!


普通に店員としての振る舞いをされただけなのに、現実ではイケメンに免疫のない私は。

紙袋を受け取ると、「菜乃ちゃん、また来てね~」という、おじさんののんびりした声を聞きながら、ぎこちない動きで本屋を後にするのだった。