また言い合い始めるふたりだけれど、私はそれに構うことも出来ずに呆然としていた。


あれが抱きしめられる感覚で、人の唇も、あんなに温かくて柔らかいものなんだ……。

早水くんも、如月くんとはまた違ういい匂いがしたし……

って! 何を思い出して分析してるの私は!


「……おい」


でもでも、いくら挨拶とはいえ、ものすごくオイシイ体験をさせてもらえちゃったなーなぁんて──


「おい……ナノ!」

「ほぇっ!?」


突然呼ばれて、私はピクンと肩を上げて我に返った。

名前を呼んでくれたのは嬉しいけど……

如月くんがなぜか威圧感のある恐ろしい目つきで見ているから、心臓が縮む。


「コイツに食われたくなきゃ早く教室に戻れ」

「……は、はいぃ!」


えぇ~~なんかわかんないけど怖い!


「ちょっと奏、そんな人をオオカミみたいに……」

「羊の皮被ったオオカミだろが」

「被ってないって」


そんなふたりの声を耳に入れながら、私はとにかく階段を駆け降りた。

もう、もう……今日のことは文ちゃんに黙ってなんていられないやー!!