「あれ、菜乃ちゃんにも言ってない感じ?」

「言う必要ねぇだろ」


う……素っ気なく冷たい如月くんの一言がグサリと刺さる。

当然だけど、私はかやの外なんだよなぁ……。


如月くんの過去も、どんな事情を秘めているのかも教えてもらえない。

私なんかには彼の中に踏み込むことが出来ないのだと、改めて思い知らされる。


ときめきとは違う胸の苦しさに襲われて、私の足は自然とドアの方に後退していた。


「じゃあ、私はこれで……」

「あ、待って菜乃ちゃん!」


静かに去ろうとしたものの、早水くんに呼び止められて足を止めた。

私に走り寄ってくる彼。だけど……

え、え? どこまで来るの? 近いんですけど!?


「奏の聖域、教えてくれてありがとう!」

「ひゃぅ!?」


反射的に後ずさりしたものの、なんと──ガバッ!と彼の腕の中に収まってしまった。


えー、えーーっ!?

男の子に……抱きしめられてる私!!


それがアメリカ流の挨拶であるハグなのだと、すぐに理解出来るはずがない。

抱きしめられただけで息が止まりそうになっているのに、さらにありえない事態が起こったから。