しがみつくように俺の腕を掴む彼女の手は、小刻みに震えている。
「そんな顔…しないでください…」
俺の顔を見上げる茉弘の顔は、唇を噛み締めて苦しそうに歪んでいる。
俺は、茉弘の頭にそっと触れる。
それから、またすぐに前に視線を移して、光の中に浮かぶ闇を見詰めた。
「前に、今煌龍のある地区がどんなだったか、話した事がありますよね」
「う…ん…。確か、7つの暴走族や不良グループがあって、抗争が絶えない地区だったって…」
「そう。その当時、ヤクザ同士の遊びの賭け事にあの地区がよく使われていたんです」
「…え?」
「“7つのグループの抗争が起こる度、その勝ち負けを予想する”というものです。
親父は俺達が襲われている間、他の組の奴らとそんな事をしていたんです」
自分でも意識してるわけじゃないのに、はっと乾いた笑いが出る。
何度思い出しても、気分のいい話じゃない。
「まだ幼かった俺は、そんなあの人を恨んでいたのかもしれません。あの人だけじゃない。俺が生まれて育った極道の世界も、母を見殺しにした自分自身も」
あの頃の俺は、何もかも無くなってしまえばいいと思ってた。
だけどまだ幼かった俺には何も出来るはずもなく、ただただそこにある現実に押し潰されそうになるのを必死に堪えるしかなかったんだ。



