漆黒の闇に、偽りの華を②【完結】


その時の母さんの顔は、今でも覚えてる。


真っ青に青ざめた顔に、額を伝う汗。


必死に声を殺しながら、


“お願いっ…出てっ…お願いよっ…”


そう繰り返してた。



そうしている間にも、男の足音が迫ってくる。


靴と地面が擦れる、ジャリっという音がしたかと思うとその足音が止んだ。


母さんが、俺の手を一度強く握る。


顔を上げると、いつになく穏やかな母さんの顔がそこにあって、


それから耳元で囁くんだ。



“恭、誰よりも愛してる”



って。



それからは、一連の出来事がスローモーションのように見えたよ。



母さんは俺に携帯を握らせると、


俺の横からスッと立ち上がって、


男の前に両手を広げて立ちはだかって、


大きな声で叫ぶんだ。


“恭!!!逃げなさい!!!!”


って。


俺は、真っ白な頭でとにかく母さんの言うように一目散に駆けた。


息が切れて、喉の奥に痛みを感じても、


涙で前が見えなくても、


とにかく、足だけは止めずに。





どれくらい走っただろう?


そこがどこかも分からない。



ふと足を止めて振り返る。



男の姿も母さんの姿もない。



急に酷く心細くなってくる。