シエディアオ歴一二年
「女神様、次は何処に行くのですか?」
「博物館です」
「最近できたばかりのですか?」
「ええ」
女神が神殿の次に姫と王子を連れて行ったのは先週できたばかりの博物館。其処には年号がまだヴァイナー歴だった頃の物が飾られている。主に戦争関係のものだ。此の博物館ができるまでには様々な議論が行われた。博物館の建設自体を反対する者も居れば、戦争関係の展示のみを反対する者も居た。反対する者達は戦争のことを思い出したくないという思いからだ。其れだけ戦争が残した爪痕は深い。

ヴァイナー歴五九八年 ノルイの月 第一五番目
執務室を出たグレンは人目のない道を選び、今は誰も使われていない廃ビルに入って行った。冷たいコンクリートにグレンの足音が反響する。ビルは何かの会社だったようで、出入り口の正面に受付があった。
 グレンは受付の前を通り過ぎ、更にビルの奥に入った。通路の至る所に監視カメラが設置されていた。だが、監視カメラは全て機能しておらず、埃を被っていた。中には配線が切れて、宙ぶらりんになっていたり、完全に折れて、床に転がっているものもあった。
グレンは通路を真っ直ぐ進み、エレベーターが機能していないので、其の隣にある階段を三階まで上った。階段を上りきると眼前に両開きの大きなドアがあり、プレートには会議室と書かれていた。グレンは躊躇わずに会議室のドアを開けた。長方形に並べられた名が机。其の上座に一人の男が座っていた。低身長でやや肥満気味の白髪の男はグレンを不機嫌そうに見つめた。
「随分、遅かったな」
「申し訳ありません。ベンジャミン・フランク大臣」
「ふん」
グレンは社交的な笑みを浮かべ、適当な席に腰を下ろした。
「ですが、あなた方エレジア連邦がリベレイションの手綱を持つ手を緩めいているので、調子に乗った彼らはラスール帝国で好き勝手されて、こっちはおかげで仕事が山積みなんですよ」
「貴様こそ、ラスール帝国の大佐としてruinを破壊したではないか」
「一応、ラスール帝国軍ですから、何らかの情報は提供しなければなりませんし、上から命令が下れば、其れなりに従わなければいけませんので。中途半端にすれば、疑いを向けられるか、足をすくわれることになるのでね、其処はご勘弁ください。其れにruinはあれ一機だけではないのでしょう」