シエディアオ歴一二年
神殿の中央にあるラ・モールを見た後、女神は王子と姫を連れて其の奥に行った。神殿の奥には白石でできた扉があった。二メートル級の大きさのある扉は女神が人差し指に嵌めているガーネットの指輪を扉の中央にある窪みに嵌める。すると、扉が自動的に左右に動いた。
「こちらです。姫、王子」
女神にエスコートされ、姫と王子は扉の内側に入った。
「此処が封印の間ですか?」
「ええ」
封印の間と呼ばれた部屋には水が入った円錐形が置かれていた。円錐形の中には血のように真っ赤な髪をした少女が閉じ込められていた。彼女はまるで眠っているように目を閉じていた。
「此処の扉の鍵がガーネットになっているのは彼女の髪の色に似ているからなんですよ」
女神がいつも指に嵌めているガーネット。女神は其れを時折愛おしそうに見つめていたから、女神にとって其の指輪がとても大切な物であることを姫は知っていた。
綺麗な指輪だと思い、姫は度々注目していたからだ。まさか、其れが封印の間の鍵だとは思いもよらなかった。
「女神様、此の女性は誰なんですか?」
王子は円錐形に近づき、少女をじっと見つめていた。とても美しく、けれど何処か寂しそうに見える少女。王子は見ているだけで切なげな気持ちになった。
「スカーレット・ルーフェン。ラ・モールの最初のパイロットです。そして。彼女はジェイド様の大切な姉君でもあるんです」
「えっ!」
「そうなんですかっ!」
目の前に居る神秘的な女性が知り合いの身内だということに王子も姫も丸くして驚いていた。女神はイタズラに成功した子供のような顔で二人の子供を見つめた。
「女神様、スカーレット様は死んでいるのですか?」
姫は恐る恐る女神に尋ねた。
「呼吸はしています。心臓も動いているので、死んでいるわけではありません」
なら「生きている」の一言言えばいいのに、おかしな言い方をするなと、姫と王子は思った。二人の気持ちを察した女神はスカーレットを見上げて言った。とても、寂しそうに。
「生きていても、目を覚めることはないんです。もう二度と」
女神様の話を聞いて姫は何故ラ・モールが泣いているように見えたのか分かった。ラ・モールはやはり悲しんでいたのだ。大切な主人(パイロット)を失って。
「そして、スカーレット様の周りを取り囲んでいる銅像は彼女と共に戦った戦士達です。