シエディアオ歴一二年
「王子と姫は此処に来るのは初めてですか?」
「はい」
「何があるんですか?」
王子と姫は好奇心で瞳を輝かせ、女神を見つめた。
「ラ・モール。黒き翼を持った死神です」
神殿の中央には真っ黒なロボットが騎士が姫に対する礼のように片膝を折った姿勢で置かれていた。
「私、此のロボットがあまり好きではありません」
姫は女神の腕にしがみつき、怯えた目でロボットを見ていた。
「僕は好きです。騎士みたいに格好良いです」
対して、王子は憧れの人物でも見るかのように大きな瞳を輝かせていた。男の子というのは、いつの時代でもロボットや機械のような類が好きなものだ。
「姫はラ・モールが、怖いのですか?」
「死神と呼ばれていますし、其れにラ・モールの色は真っ黒で、まるで、闇に飲み込まれそうで・・・・」
「そうね。でもね、闇を恐れてはいけません。闇は恐れるものではありません。闇は常に光と共にあります。闇があるから光がある。その逆もまた然り。闇とは夜のこと。夜は自然現象の一つ。つまり、闇とは自然、世界の一部。其れにね、此のラ・モールは私達の平和を守る為に戦ったのですから。私達の今の平和はラ・モールあってこそなのですよ」
「ふぅん」
女神の話を聞いて、姫はもう一度ラ・モールを見上げた。女神の話を聞いた後だとラ・モールに対する恐怖心は僅かだが和らいだ。
「ラ・モールは此の国の守護神のようなものなんですね」
ラ・モールに対する尊敬を更に深めた王子の頭を女神は優しく撫でた。だが、姫にはラ・モールが泣いているように見えた。
ロボットなのだから感情はなく、姫の気持ちを察するように女神は姫の頭を撫でた。


ヴァイナー歴五九八年 ロスロンの月 第三〇番目
スカーレット・ルーフェンは初めてラ・モールに乗り、空へと舞い上がった。眼下には燃える街、逃げ惑う人々の姿があった。本格的な戦争が始まったと思うと、操縦桿を握るスカーレットの手に自然と力が入った。
スカーレットはレーダーでruinの場所を確認した。
「宇宙まで出るのか」