虎かな……。
私は虎だと思うな。
身体もバランス悪いし、顔もなんだか、子供の落書きみたいだけど。
笑うな、と言われた置物がなんなのか、すぐにわかった。
立派な敷物の上に置かれた陶器の虎……のようなものがすぐに目につく位置にあったからだ。
「広瀬専務。
新しく、第二に入りました。
志貴島未咲(しきしま みさき)です」
そういいながら、克己が、こらっ、と未咲を目で叱る。
笑うな、と言われたが、見るな、とは言われていない。
というか、これを見るなと言われても無理だ、と未咲は思った。
目が吸い寄せられるように見てしまう。
ふいに、よく通る声がした。
「……それは、中国の取引先からもらったもので、飾っておく必要があるから、そこにあるんだ。
私の趣味じゃない」
嫌そうに説明してくれたのは、広瀬智久(ひろせ ともひさ)専務だった。
この若さで専務とか、と未咲は思う。
恐らく、年は、遠崎夏目(とおざき なつめ)とそう変わらない。
智久もまた、会長の親族で、もともといい待遇を受けていたのだが、最近、専務になったようだった。
いきなり課長になった遠崎夏目と同じように。
会長引退後の後継者を決めるため、或る程度のポストにつけてみようということになったようだが。
数居る親族の中でも、専務になった智久は別格のようだった。