俺たちは乗り越えられなかったんだろう、と智久は言う。

「あいつが本当にそのことを知っていたのかわからない。

 だけど、お前たちを見ていて、もしかしたら、と思ったんだ。

 それで俺から離れようとしたんじゃないかと」

 そこで、少し疲れたように溜息をつく。

「俺はあいつの気持ちに気づかず、支えてもやれなかった。

 だけど、お前たちは、軽くそこを乗り越えていったんだな。

 許される国を探して日本を出るとか。

 自分の今の立場や暮らしを手放させない俺には、考えもつかないことだと思ったよ。

 でもーー」
と強く手を握り直し、智久は言う。

「さっき、俺が社長の子供じゃなかったら、と言ったが、俺も全部捨ててもいい。

 よく考えたら、この小うるさいペットを手放したら、俺の生活は実に味気ない。

 どんな七光りも金もなくても、なにもない誰も知らない国でも、きっと、俺はもう一旗上げてやる。

 だから、俺に付いてきてくれ。

 俺がお前の甥であっても」

 智久はそこで手を離した。

 真摯に見つめて言う。