禁断のプロポーズ

 智久は、ナイフで刺されたらしい己れの腹を恐る恐る見ながら、
「なんで俺がお前をかばって刺されるんだ」
と呟いている。

「ほんとですよっ。
 なんで刺されてるんですかっ」
と叫びながら、未咲は上着を脱いで、それで傷口を抑える。

 犯人は智久を狙ったわけではない。

 自分を狙ったところに、彼が飛び出しただけだから、傷自体は、そんなに深くはないようだったが、出血が多いのが少し心配だった。

「俺がなんの悪いことしたって言うんだ」
と専務室の扉に背をぶつけたまま、痛みに丸くなった智久が言う。

「わ、悪いこと?
 悪いことですか?

 女子高生を金で買ったり?」

「なんにもしてないだろうが」

「うちのおねえちゃんを弄んだり?」

「弄ばれてたの、俺じゃないのか?」

「ああ、そうだ。
 私のファーストキスを奪ってみたりっ!

 ヤバイですよ、智久さん、走馬灯のように思い浮かびますっ!」

「それだと、死ぬのはお前だろう」
と冷静さを取り戻してきた智久が言う。

「それに、死にかけたら、走馬灯のように過去の記憶が脳を巡るのは、単に、今現在起こっている危機に対して、これまで経験してきたことで得た知識が使えないか、脳が検索するからだ」

「今、そんな長い説明いらないですよっ」

 喋るたびに、血が溢れそうで不安だった。