朝、未咲は会社の廊下を歩きながら、考え事をしていた。
一連の出来事の中に、なにかこう、釈然としないものを感じていたのだ。
あまり人気のない役員室のある階。
向こうから、清掃業者の人が掃除道具の詰まったワゴンを押してきている。
頭を下げると、帽子を目深に被ったその人は、丁寧に下げ返しながら、ワゴンの中のなにかを取った。
専務室の扉が開く。
「未咲っ!」
と智久の声がした。
一瞬、なにが起こったのかわからなかった。
清掃業者の人はワゴンを置いたまま、非常階段に向かって走り出す。
向こうからやってきた佐々木とぶつかりそうになり、佐々木がおっと、と振り返り見ていた。
彼が走って行った方角に、点々と血が滴っていた。
未咲は足許を見る。
あのとき、あの夜の波止場で見たのと同じに、智久が腹を刺されて、うずくまっていた。
「智久さんっ」
と慌てて、側にしゃがんだ。
腹を抑えた智久は、
「……痛いな、結構」
とうめく。
「相当でしょっ。
佐々木さん、救急車っ!」
「わ、わかりましたっ」
さすがの佐々木も社内ではあまり起こらない事態に動揺しており、ワンテンポ反応が遅れた上に、未咲に向かって、敬語をつかっていた。



