「俺のところに居るのも広瀬の指示か」

「いや、そのことに関しては、阿呆か、と言われましたが。

 まあ、ただの勢いです。

 専務には、使えないくノ一だと思われてます」

「いや……俺には充分使えてると思うが」
と夏目は言い出す。

「そんな奇特な人は貴方くらいのものですよ」

「他にも誰か色仕掛けとか使ったことあるのか?」

「貴方にも使った覚えはないんですけどね」
と言うと、

「で、何故、今、それを話す気になった」
と言われる。

「……貴方に気を許したからですかね?」

 違うだろう、と夏目は言った。

 困ったことに何処までも冷静な人だ。

 未咲は箸を置く。

「私――

 夏目さんが好きです。

 今、わかりました」

 もうこの人とは駄目なのかもしれないと思って初めて。

 いや、手放さなければならないと思うから恋しくなるのか。

 俯き黙っていると、夏目が身を乗り出し、口づけてきた。

 拒否しなければと思うのに、出来なかった。