「いや、広瀬とのことはずっと疑っていた」

 だから焦っていたのもある、と夏目は言う。

 この人が焦ってるとこなんか見せたかな、と思ったのだが、まあ、あまり、感情の出にくい人だから、と思った。

「あの男、お前と話してるときだけ、少し表情が柔らかいからな」

「それは私をオモチャにして、楽しんでるからですよ。

 あ、妙な意味じゃなくて。

 仕事中でも人が居ないと、言葉で私をいたぶって、ストレス発散してるんです」

「お前と広瀬の関係はなんなんだ」

「……私、高校生のとき、広瀬専務に二千万で買われたんです」

 さすがの夏目も箸を止めた。

「いえ、おかしな意味じゃなくて。

 二千万、専務が貸してくれたんですよ。

 でも、それだけじゃないかも。

 育ての親の事業が元に戻ったのは、もしかしたら」

 智久が裏でなにか口添えしてくれていたのではないと思っていた。

 そういうのを気づかれたくない人なので、礼も言わずに黙っているのだが、感謝はしている。

 気まぐれと親切だろうと思っていたのだが。

 さっきの告白を聞いてからは、なにか裏があったのかも、と疑い始めている。

『出会ったのは偶然だが、声をかけたのは気まぐれじゃない。

 お前がその顔をしていたからだ――』

「会社に入れてくれたのも、専務です。

 その代わり、社内や秘書課でおかしな動きがあったら教えろと言われました」