禁断のプロポーズ

「水沢さんはお母様に習われたんですか?」

「母親にも習ったよ。
 大喧嘩しながらね。

 どうしてもその味を覚えたかったから。

 だって、自分が一番気に入ってる味じゃない」

「でも、克己さんの料理って、両極端な感じが。

 南国風の料理も美味しいんですけど。

 前回、一品、つまみ的なものを作ってくれたじゃないですか。

 家庭料理みたいな。

 ああいう和食はまた、ガラッと味が違って、いいですよね」

「うん。
 あれはね、習った人が違うからだよ。

 僕のオリジナルだとまた違う」

 へえー、と思った。

 自分なら、最終的には、全部自分寄りの味にしてしまいそうだが。

 それだけ克己は習った人たちの味を大事にしているということか。

「そのつまみは小料理屋とかで習うんですか?」

 参考にしようと思っているのか、桜がそう訊いていた。

 克己は少し、考え、……いや、と言う。

「昔、好きだった人に習ったんだよ。

 その人が、母の味も習っておいた方がいいって言うから、母からも習ったんだ」

「ええっ!? 水沢さんに好きな人っ?」

「なに、君ら、その言い方」