「もう〜。
なんで僕の意見を無視して、そんな話勝手に決めてくるんだよ」
古い造りなので、昼間でも薄暗く感じる夏目家の台所。
今はもちろん、真っ暗なので、時折、瞬く蛍光灯をつけていた。
古いテーブルに、買い物袋から大きな車海老を出しながら、克己はそんな文句を言ってくる。
「すみません。
つい」
と未咲が苦笑いして言うと、
「しょうのない子だねえ」
と言われれるが、本気で怒っているようにはなかった。
「美女に囲まれて呑むの、お嫌いですか?」
「嫌いって言ったろう」
あら、と桜が口を挟んでくる。
「水沢さんは、灰原も嫌いなんですか?」
桜の中の彼女の評価はそう悪くないようだった。
「嫌いっていうか」
とシンクに海老を置いた克己の背を見ながら、未咲が代わりに答えた。
「水沢さんのことが好きな人を水沢さんは嫌いなんですよね」
「いや、誰彼構わず、嫌いなわけじゃないよ。
嫌いというわけでもない。
警戒してるだけだ」
「可愛くないですね」
と言ってやると、なにっ? と振り返る。



