禁断のプロポーズ

 灰原は困った顔をし、
「この会社全体?
 それとも第二?」
と訊いてくる。

「第二です」
と言うと、

「すごくキャリアを積んでた人だと残ったりもするわ。
 でも、……大抵はやめちゃうわね」
と言った。

 まあ、そうか、と思う。

 愛人をやっていたような人は、結婚して、そのまま此処に残れるはずもない。

「灰原さん……」

 なに? と物思うような顔をしていた灰原が目を上げた。

「いえ」

 貴女もですか、と訊きたかった。

 そうではないと言って欲しかった。

 灰原とは腹を割って話したい気がしたからだ。

 人としても、姉のことを調べている人間としても。

 桜は恐らく、入社当初から目立ち過ぎ、同僚からは距離を置かれている。

 憧れている女子社員は多いようなのだが、恐れ多くて近寄れない、といった感じだ。

 社内のしょうもない噂話を彼女にしそうな人間は居ない。

 いつも群れている灰原の方がいろいろ知っていそうなのだが。

「昔……。

 貴女にちょっと似た先輩が居たの。

 桜さんの同期だった」

 急に彼女はそんな話し始める。

 未咲は、動揺を顔に出さないよう努めた。