禁断のプロポーズ

 嬉しいけど。

 まだ結婚したわけじゃないしなあ、と思っていた。

 そういえば、プロポーズした日、日取りの方はちょっと待てとか言ってたっけ?

 どうするのかなあ、とじっと見つめると、夏目が目をそらす。

「社内で、そういう目をするな」
と言われた。

「そういう目ってどういう目ですか」

「……自覚がないから、怖いんだ」

 じゃあな、と軽く頭を叩いて行ってしまう。

 廊下を行く後ろ姿を見送っていると、

「なに?
 意外にも、ラブラブじゃない。

 もしかして、もう結婚してやめる?」
と背後から訊かれた。

 灰原が腕を組んで立っていた。

 この人、よくこういうポーズだけど、これってやっぱり、周りに対して身構えているからなのかなあ。

 それとも癖? と思っていると、
「ちょっと寂しくなるわね」
と灰原がもらした。

「あ、ありがとうございます。

 でも、あの、今のところ、やめる予定ではないんですが」

 肝心のおねえちゃんのことがなにもわかっていないのに、やめられない。

 ちょっと怪しいが、格好いい結婚相手を見つけて幸せになるので、調べるのやめますなんて、天国のおねえちゃんに殴られようというものだ。

 いや、天国に居るかは知らないが。

「あの、此処って、結婚したら、普通、やめるものなんですか?」
と訊いてみる。