禁断のプロポーズ

 



 水沢たちと別れたあと、廊下から、扉の開いた第二秘書室を眺めながら、未咲は思っていた。

 一体、誰が誰の愛人なんだろうな、と。

 興味はないが、知ってしまった以上、いろんな意味で、気が抜けなくなったのは確かだ。

「なに見てんだ」
と後ろから頭をはたかれ、振り返ると、夏目が立っていた。

「挙動不審だぞ。
 まあ、入社したときから、ずっとだが」
と言う。

「あれっ?
 こっちに来るなんて珍しいですね」

「ちょっとな」

 夏目は、そう面倒臭そうに溜息をつく。

 どうでもいいが、社内でスーツ姿だと一層格好いいな、と思っていた。

 あのとき、うっかりプロポーズしてよかった。

 此処で、この格好のこの人と結婚したい、としょうもないことを考えていたのだが。

 そういえば、夏目に言っておかねばならないことがある、と思い出した。

「あの、今日なんですが、水沢さんと一緒に、桜さんも来ることになりました。
 いいですか?」
と言うと、

「いいですかって、もう呼んだんだろう。
 お前が呼びたきゃ好きにしろ」
と言うが。

「いや、考えてみれば、うちの家でもないなー、と思って」

 夏目はそこで渋い顔をし、
「もうお前の家だろう」
と言う。