禁断のプロポーズ

 普段の少し気を抜いた智久を知っているから怖くはないが、相変わらず鋭い眼光だな、と思っていた。

 顔が整い過ぎているせいだろうか。

 男のくせに、無駄に綺麗な顔なんだから。

 取り替えてくれないかな。

 いやいや、夏目さんは、少し間抜け面の方が好きみたいだから、今のままでいいかな、と智久の顔を眺めながら、しょうもないことを考えていた。

 中にお前が入れば、どの顔でも間抜けになる、と言われそうだが。

「なに人の顔をじっと見てるんだ」

「いや、無駄に綺麗な顔だな、と思いまして」

 ふいに智久は、
「……似てないか?」
と訊いてきた。

 誰と? と思ったが、
「いや、いい」
と言ったきり黙り込む。

 そのとき、外のドアがノックされた。

 少しせわしない感じだ。

 急いで来たらしい桜が頬を上気させ、入ってくる。

「失礼しますっ」

 今朝はまだ一度も、智久に会っていないはずだ。

 それで早く会いたくて、駆け込んできたのだろう。

「可愛いですよね、もったいない」
とガラス越しにそちらを見ながら呟く。

「お前、誰に対して、なにを言ってるんだ?」
と朴念仁に訊かれたので、

「教えませんっ」
と突っぱねたまま、失礼しました、と頭を下げ、出て行ってやった。