禁断のプロポーズ

「いや、おねえちゃんが、そういう野心のある人間だったと言ってるんじゃないんですよ。

 相手がそう思ったんじゃないかってことです。

 人間って、相手も自分と同じ発想で動くと思っちゃうとこあるじゃないですか」

 野心のある人間ねえ……と呟いた夏目は、

「姉さんは、ビルの屋上から転落したんだったな」
と確認してくる。

「靴がきっちり揃えられてたんですよ。
 二時間ドラマみたいに」

 そこでいきなり、
「もうやめないか」
と日記を遠くへやった夏目に、

「なにか貴方にまずい話題でもありました?」
と問うと、

「いや、まだ早いからだ」
と言う。

「確かにちょっと早いですね」

 此処は会社からそう遠くないから、もう少し寝ても、と思ったとき、夏目がまだ服も着ていない肩に触れてきた。

 いや、あの、えーと……。

「……な、なんでしょう?」

「今、此処でなんでしょうとか言うのも変じゃないか?」

「へ、変じゃないてすよっ」

 私、もう行かないと、と言うと、
「今、早いって言ったろう?」
と言われる。

『夏目とはあまり深い関係にならない方がいいぞ』

 もう一度、智久の言葉が頭をよぎる。

 呪いだ。

 智久がじゃない。

 この人が。