禁断のプロポーズ

 



「これがおねえちゃんの日記です」

 夕食後、テレビの部屋で、それを取り出し、ソファに居た夏目の横に座った。

 渡すと、
「いいのか?」
と訊いてくる。

「まあ、調べるためですから、おねえちゃんもいいって言うでしょう」
と勝手に姉の気持ちを代弁してみた。

 日記を手にした夏目は、
「本当にくだらないことしか書いてないな」
と智久とまったく同じ意見を述べてくる。

 だが、彼は、ページをめくり、言った。

「……日記ってのは、自分の思ったことを書くんじゃないのか。

 絵日記や感想文なら、これはバツだ。
 そして、おかしい」

「え?」

「自殺するほど思いつめている人間なら、こういうものに想いを吐き出すはずだ。

 こうして、人が見ることなど想定してはいないだろうから、自分の気持ちを書きたくなると思うんだが」

「見ることを想定してたとしたら?」

 夏目が目を上げ、こちらを見る。

「なにかを誤魔化すために、こういうものを書いてたとか」

「なにか?」

「例えば、自分が自殺した理由。

 或いは、殺された理由。

 そういう未来を予測していて、誰かが。

 そうですね。
 例えば、私がこの日記を読むことを最初から想定していたとか」

「自殺に至った原因となる相手か、殺した犯人をかばってるってことか。

 誰だ?」

 思わず、夏目を見つめると、
「俺じゃないぞ……」
と言ってくる。