禁断のプロポーズ

「今日は遅かったな」

「そうなんですよ。
 ちょっと人に会って、昔話などしてまして」

 まあ、嘘は言ってはいない。

 古い鍵穴に鍵が差し込まれるのを見ながら、
「やっぱり、此処が一番落ち着きます」
と言うと、夏目は振り返った。。

 なんだろう? と見上げると、夏目は軽く身を屈め、キスしてくる。

 ……えーと。

「人が見てるかもしれませんよ」

「誰も通らないだろ、庭なんだから」

「そこから見えますよ」
と木塀の切れ目を指差す。

「一瞬しか見えないだろ」

 いや、一瞬でも嫌だろ、と思っていると、夏目は未咲の両腕を掴み、もう一度、顔を近づけてきた。

「もうっ。
 駄目ですってばっ。

 どうしたんですかっ」
と押し返すと、

「なにやら、妙な不安を覚えてな」
と言い出す。

「……他の男の匂いがする」

 どきりとした。

「……ような気がする」

 うう。
 心臓に悪いな、この人。

 だが、知られてまずいようなことはなにもしていない。

 まだ、彼に真実を話せないのは確かだが。