禁断のプロポーズ

「……人の顔を凝視するな」

「いや、育ってきた環境って、大事だな、と思って」

「いろいろと含むところがありそうに言うな」
と言いざま、起き上がった智久は、いきなり未咲を膝に抱えた。

 少しめくれてしまったスカートを抑えながら、未咲は叫ぶ。

「ちょっともうっ。
 なにするんですかっ。

 セクハラ親父じゃあるまいしっ」

「お前にセクハラする親父なんて居ないだろ」
と大真面目な顔で智久は言ってくる。

「ああいうのは、結構、相手を見てやってるんだ。

 職場で厄介なことになりたくないからな。

 お前にみたいに、その場で大騒ぎしそうなやつにはやらない」

「今も泣き寝入りはしませんよ」

「やってみろ、誰も居ない。
 このマンションで騒いだからって、外には聞こえない」

「警察に通報します」
と側にあったスマホを掴まないまま言う。

 いつものパターンから言って、智久がこれ以上、なにもしては来ないのはわかっているからだ。

 それにしても、今日はやけに絡んでくるな。

 なにか疲れてるのかな、と思っていると、
「お前は此処に住んでるんだ。
 しょうもない痴話喧嘩だと思われるだけだろ」
と言いながら、案の定、未咲を膝から下ろした。