「夏目」
いきなり気配もなく、背後に克己が現れた。
「なんですか」
と振り向かずに、訊くと、
「驚かないねえ。
面白くない。
せっかく気配を消してきたのに」
と言われる。
夏目は、リターンキーを押して振り向いた。
「スーツ、ありがとね。
明日にでも持ってっていい?
クリーニングから帰ってくるから」
「別にそのまま返してくださってよかったんですが」
「いやいや、そこはきちんとしないとね。
ねえ、スーツ返しに行っていい?」
「……構いませんが。
じゃあ、遅い時間にしてください」
「なんで?」
未咲だけが居るときに来られたら困るからだろうが、と思っていたが、もちろん、克己はわかっているらしく、笑っていた。
「酒となにか美味しいもの買ってくよ、お礼に」
いや、お礼にじゃなくて、呑みに来たいんだな、と思った。
「いいですよ。
うちで用意しますから、呑みに来てください」
厄介な人ではあるが、一緒に呑むのに、嫌な相手ではない。



