禁断のプロポーズ

 



「今、私は後悔してますよー」

「なにをだ」
と智久が言う。

 桜も佐々木も社外に出ていた。

 他に、ふいに専務室に入ってくるような輩(やから)は居ないので、未咲は回覧を手に、智久のデスクにすがり、仕事中の彼と話していた。

「せめて、二百万だけでも返しておかなかったことをですよ」

「そんな、はしたはいらん。
 返すのなら、耳揃えて全額返せ」

 ノートパソコンのディスプレイを見たまま、智久は言う。

「二千万でも、はした金なくせに〜」
と言うと、智久はパソコンから顔を上げ、

「ごちゃごちゃ言わずとも、お前には、まだ、なにも厄介なことは頼んでないと思うがな」

「まだ、ですか」

「頼むとしたら、夏目の寝首をかいてこいってことくらいか?」

 再び、ディスプレイに視線を落とし、そんな戯言(ざれごと)を言った。

「嫌ですよ、先に私がやられますよ、どう考えても」

「使えないくノいちだな」

 色仕掛けの使えないくノいちか、と呟く。

 そんな智久を見下ろし、いちいちうるさいご主人様だ、と思っていた。