「お前のせいだ」
はいっ? と未咲は歯ブラシを手に振り返った。
朝の洗面所で、いきなり夏目が毒づいてきたからだ。
「夢の中で、ばあさんがずっと、ゴムまりみたいに跳ねてた……」
そう不機嫌に言う夏目に、ははは、と苦笑いしたとき、
「やあやあ、おはよう」
と朝っぱらから、爽やかに克己が現れた。
「ごめんねー。
昨夜は泊まっちゃって。
ごめんねついでに、スーツ貸してよ、夏目」
「あれっ?
水沢さん、課長のスーツで大丈夫ですか?」
と言うと、
「それって、どういう意味で?」
と訊き返される。
「いや、水沢さんって、ちょっときゃしゃそうって言うか」
「そりゃ、顔が細いからそう見えるだけじゃない?
そんなに体格変わらないよね」
と克己は確かめるように、夏目の腕を叩いてみせる。
夏目は克己の全身を見、
「そうですね。
顔のない死体として入れ替わったら、わからないくらいには」
と言った。
「でも、水沢さん、色白だから」
と未咲が言うと、
「じゃ、焼死体で」
と言う。
「……朝からロクでもないね、この家の会話は」
そう言ったあとで、克己はいきなり未咲の腕を引き、抱き寄せた。
「ほらー、抱かれた感触が変わらないでしょ」



