心のどこかでは わかってたようで、雅の適当さが本気とは感じなかった。

雅の抱きしめる腕の中で、雅の優しい笑みに嘘がないように見える。


ふと、雅が言っていた事を思い出した。


満月の願い事の話…


「 …満月だから 告白とか?」


オオカミじゃないけど…


「 満月… そうかもな 」


月を見上げて見つめる雅、私も月を見上げた。


キレイ…


「 椿… 」


呼ばれて 目線を雅に向けると、視界はすでに雅の視界と交わった。

一瞬なんてものは 何をどう考え、発する声があったとしても 一瞬では無理だ。

視界が交わったと同時に雅に重ねられた唇には優しい熱を感じた。


頭が空白。


あいかわらず飛行機の通りすぎる轟音だけ。

空気は冷たいのに、雅の唇はあたたかい。


雅はオオカミ…

満月の夜、優しいオオカミにキスされてしまった。


離れた唇、雅が目を見開いたままでいる私に もう一度キスをした。


私は… 葵の彼女で、恋人で…

雅くんは葵のお兄さんで、先生で…

二人は私の お隣さん。



なのに、なんで? どうして?


頭が回らない。


「 椿… 俺を見ろ 」


雅くん… 私は…


塞がれる唇に、うるさい心音をごまかすように 目を閉じ 涙が流れた。