パニックになる手前で意識はハッキリとある。
葵の手は私の背中、素肌に触っている。
嫌でも背筋が伸びてピンっとなる。
葵の肩口の服をギュッと掴み平気なフリをするが、手の感触が少しでもズレたりするだけで ドキッとなる。
ど、どどど、どうしよう…
どうしたらいい!?
別に嫌なわけじゃないけど、こんな時はどうしたらいいか わかんないんですけどーっ!!
葵は? ドキドキしないの? してるの?
静かな部屋に二人きり、雅は帰ってくるはずがない時間。
甘い時を過ごしたかった私でも、今はどうすればいいかさえ わからない。
「 …椿 」
離れた唇からは私の名前を呼ぶ葵の声。
唇に視線が向いていて 葵の目を見られない。
「 椿、俺を見て… 」
葵… だって、恥ずかしいよっ
「 椿、見て 」
そう言った葵が私の手を自分の胸にあてる。
あ… わかる。
ドキドキは葵も同じだと、心音が私に言っている。
思わず 葵に抱きついた。
私だけじゃない、葵も私と同じ…
たくさんドキドキしてる。
「 葵、大好きっ… 」
葵に恋してる自分が好き…
はっきりそう言える。
照れる顔から火が吹きそうで、それでも葵に対し目を閉じる。
怖いのも葵だって同じ…
だったら、もうひとつ先に… 葵と一緒に。
優しく重なる互いの唇は甘い時を越えようとする新たなキスに変わっていく。
頭も体も心から葵に染まったら、私は…
「 椿… 好きだ 」
嬉しくて涙が視界を滲ませる。
何度聞いても 幸せになる言葉。
葵…
好きで好きで たまんないよ。
葵の あたたかな手が背中へと、下着に触れた時、ガチャ、バタン!と音が響いた。
誰…
「 ただいま~ 葵 いるかぁ?」
み、雅くん!?
時計を見れば6時前、帰ってくるはずがない雅が突然 帰ってきた。

