私たちの目の前で 柚奈と加寿也が赤外線通信をしている。
楽しそうねぇ ほんとに…
あんなに泣いてた柚奈とは思えないよ。
「 加寿也、そろそろ帰るよ。この子達は明日もテストだからな 」
あ~ 現実が、やめて。
「 もう 上山先生、それ禁句だよ?そうだ、加寿也さん、テスト終わったら 加寿也さんを貸しきりにさせてください!」
「 柚奈!? なんてこと言うのっ 貸しきりになんて… 今さっき 初めて会った人だよ? 」
「 椿はもう~ そんなんだから上山くんが無口なんじゃないの?」
は? んなバカな。
私と柚奈はいらぬにらめっこをし、その様子を ずっと黙っていた葵が 吹き出すように笑った。
「 葵?なに 」
なんて笑ってんの…
「 玉木、俺が無口なわけじゃないよ。俺は椿の喋りが好きなだけだ 」
ハッキリと言った葵の笑みを私は真っ赤になり見つめ、柚奈は開いた口が閉じず、雅と加寿也は 含み笑いをうっすら浮かべていた。
「 葵… あの、恥ずかしいよ?」
「 なんで?」
なんでって…… ねぇ、恥ずかしいんだよ。
「 椿のどこがいんだか 」
「 こら!柚奈、口が悪いよ 」
憎まれ口を言う柚奈には笑みがあって わざと言っているのがわかる。
時間は9時半を回り、店を出て先に柚奈を送る。
「 ありがとうございました、加寿也さん。あ、椿も 」
ついでに言うな!
「 玉木、明日はテストだぞ 」
「 先生、ヤボだよ… じゃあ おやすみなさい 」
手を振り、柚奈に見送られながら加寿也の車で自宅まで帰る。
自宅に着いて車を降りると、私は加寿也さんに柚奈の事を話す。
「 加寿也さん、柚奈は別れた壮真を今も好きなの… いつかは ふっ切れると思うけど、今 傷ついてほしくないから… 」
あんな風に泣く柚奈を もう 見たくないよ…
「 椿ちゃん、その ふっ切るキッカケが俺ならいいよ。もし恋されても それは錯覚だろ、心配しなくていいよ。じゃ、またな 」
加寿也さん…
帰っていく加寿也を葵と雅と見送った。
「 椿ちゃん、加寿也を信じろ 」
そう言って家に入る雅、葵はそっと私を抱きしめてくれる。
あったかいな、葵は。
「 椿、俺がそばにいる 」
ん? 慰めてくれてる?
「 ありがと、葵… 離れないでね 」
「 おーい!そこまで~ 解散だぞ~」
くっそぅ、また いいとこで… 雅くん 下痢になれ!

