山南さんの一件は、始まりに過ぎなかった。新撰組はどんどん変わっていった。組織が大きくなるにつれて、譲れない信念がぶつかり合うようになった。
 伊東甲子太郎《かしたろう》さんは、山南さんが追い詰められる一因にもなった人だけれど、山南さんの死を本当に悲しんでいた。悪い人ではないと思った。
 けれど、伊東さんはやっぱり、新撰組の火種になってしまった。近藤さんの参謀であったはずの伊東さんは、いつの間にか、近藤さんと違う理想を唱えるようになっていた。
 人間的な魅力で隊をまとめてきた近藤さんと、筋の通った理想の政治論を掲げる知性派の伊東さん。タイプの違う二人のリーダーは、新撰組を二分する論争を起こしてしまった。
 そして、伊東さんはついに新撰組を離脱。伊東さんに心を寄せる隊士たちもそっちへ付いていった。その中に、藤堂さんもいた。
「シャリンさんもつらそうでしたね。藤堂さんたちが亡くなった事件のとき」
 やんちゃ者の藤堂さんは暴れん坊だったけれど、ずっと、戦うための理由をほしがっていた。あるいは、戦う理由は最初から持っていて。それを明確な言葉にしたがっていた。
 伊東さんには、それができた。何のために戦うのかという、命懸け理念や信念を、言葉にできた。だから、藤堂さんは伊東さんに憧れて、悩んで悩んで悩んだ結果、近藤さんではなく、伊東さんを選んだ。
 隊を抜ける者に与えられる処断は、一つ。死だ。
 伊東さん一派は結局、新撰組と戦って散り散りになった。命を落としたり、逃げたり。藤堂さんは、新撰組の仲間に斬られて亡くなった。
「ラフ先生、アタシ、こんなシナリオは初めてです。いつも、明るいストーリーしか選んでいなくて。楽しいステージばっかりプレイしてきました」
「思った以上にガチなシナリオだったな。気軽に誘っちまって、悪ぃ。今、本気で泣いてんだろ?」
「泣いてます。最近、ログインするたびに泣いちゃいます。でも、謝らないでください。新撰組に出会えてよかったって、アタシ、本当に思っているので。新撰組のみんながステキだから、悲しくて泣いちゃうんです」
「ラストまで頑張れるか? 頑張るっつーのも、変な言い方だけど」
「頑張ります。沖田さんの人生、ちゃんと見守ります」
 アタシはコントローラを置いて、ハンカチで目元を拭った。
 泣いていられない。ディスプレイには、青白い顔で眠る沖田さんが映っている。まつげが長い。頬がやせてしまった。