「…何でもありません。」 首を振ってから、私は人の波をまた見つめる。 こんな風に誰かと一瞬にいて、居心地が良いと思ったのは生まれて初めてだった。 ……だから、戸惑ってもいる。 何も知らない天野さん。 時々、天野さんが挨拶されている時に漏れ聞こえてくる“きょうさん”ってフレーズで、何となくせれが下の名前なんだって思ってる。 当たってるかどうかは勿論、私からは聞いてない。 …………年齢も天野さんが何者なのかも、私からはこれからも彼に聞くつもりもなかった。