「海だーーー!!」
大きな浮き輪を片手に叫ぶ夕。
夏休みなだけに、人もそれなりに居るわけで。
「ってことで泳ぐぞー!」
「その前にちゃんと準備運動しろよ。海中でつったらお前死ぬぞ?」
こういうところだけはしっかりしている。
「……………死ぬのだけはは勘弁して」
一瞬顔が青白くなり、すぐさま夕は真と一緒に準備運動をし始めた。
「よしっ、じゃあ今度こそ泳ごう!」
「よし!」
「私も泳ごうかな」
「じゃあ一緒に行こう?」
「うん」
夕に手を引かれて、波立つ海へと飛び込んだ。
本当、何年ぶりだろう。
冷たくて気持ちがいい。
砂浜では、透はパラソルを立て、蒼空は砂遊びを始めていた。
「わっ」
ばしゃんと音を立てて私は海に突っ込む。
「おい、大丈夫かよ」
「あはは……。ごめん、私泳げなかった」
「マジか。まさかの金づち?」
「金づち……なのかな」
あぁ、そういえば中学の頃も水泳だけは全然ダメだったなと、今更思い出した。
「なら、浮き輪借りてこようか?」
「ううん、いい。真は泳げるんだよね?」
「それなりにな」
「なら、泳ぎ方教えて」
「いいけど、浮くどころか沈みそうなんだけど」
「大丈夫、任せて」
「その任せてはどっちの意味だよ……」
「んー?」
「はぁ。とりあえず、ここは人が多くて危ないし、あっちの人が少ないとこにでも行くか」
「うん。」
真が指し示す場所は、確かに人も少ないし、波もそこまでたっていない静かな場所だ。
いざその場所に行くと、夕や蒼空たちがどこにいるのかも確認出来なかった。
「まずは、浮くところからやるか。仰向けで力を抜いて浮いてみろ」
「分かった。…………こう?」
「あ、ああ……」
「どうしたの?顔逸らして。ちゃんと見ててくれないと流されそうだよ、これ」
「っ……分かってるよ!」
そう言いつつも、海に漂いながら真を見上げるけれど視線は合わない。
それは彼が腕で顔を隠しながら顔を逸しているから。
「ねぇ、なんで逸らすの」
「だから………その格好だと………胸が浮いてて丸見えというか、なんというか……」
「!」
私は恥ずかしくなってすぐに立ち上がった。
やっぱり水着は良いことない。
「そ、それは置いといて、ほら、両手出せ。そんで浮いてみろ。顔は上げてていいから」
「ん」
真は私の手を取ると、ゆっくりと歩き出した。
「そうそう、これなら泳げるだろ。手、離すぞ?」
「え、待って」
「ほい」
真はぱっと手を離してしまった。
「わっ……」
支えが無くなった途端、体が鉛のように沈む。
その拍子に塩水を飲み込み、呼吸が苦しくなる。
「おいっ!大丈夫か!?」
「………ゲホッ、ゲホッ」
救いの手は直ぐに現れて、真は私の腰をひょいと持ち上げた。
足がつくくらいの浅さで、まだ良かった。
「塩水、飲んじまったか?」
「コホッ………コホッ」
塩辛さが喉を刺激して、咳が出る。
そんな私を真はそっと抱き寄せ、背中をさすってくれた。
「飲み物飲んだ方がいいな。ひとまず透のところに行こう」
離れないようにギュッと繋ぐ手が、ほんのり温かく感じた。
やっぱり、真って本当は優しいんだ。


