「葵ちゃんオレンジジュース飲む~?」


洗濯かごを棚の上に置いてくれた日向先輩にお礼を言っていると、艶のある黒髪の両サイドを編みこんでいる紫苑先輩が声をかけてきた。

欲しいです、と素直に頷いてその手伝いをしようと隣に立てば紫苑先輩はふわりと笑う。


「じゃあこれ、真央くんに持っていってあげて」

「わ、ココア……!」

「あら、葵ちゃんもココア好き? ごめんジュースもう淹れちゃったわ」

「や、ぜ、全然大丈夫です、オレンジ好きなので」


と言いつつも、真央くんのマグカップから漂う甘い香りに思わず喉が鳴った。無性にこういうの飲みたくなるときってあるよなあ、と思いながら窓際に座る真央くんの元へと向かう。


「真央くん、これ」


差し出せば、真央くんは両手で受け取って、ふう、とココアを冷ますように息を吐いた。

ふと視線を落とすと、真央くんの膝の上に乗ったスケッチブック。先輩いわく、部室の壁に貼ってある絵はすべて真央くんが描いたもので、鉛筆で描いてみて気に入ったものにだけ色を塗っているそうだ。その中から選りすぐりの絵だけが飾られているらしい。

その絵というのもそれぞれで、風景が描かれたものもあれば、人物が描かれたものもあった。鉛筆の段階では細部まで描きこまれているけれど、色はぼやっと乗っているだけ、というのが真央くんの絵の特徴である。でもそのぼやっとした色さえも、味があるように思えた。