「どうしても、前に出て行くことができない。自分の育った環境を考えると」
「そういうのわかるよ」
久俊さんは、初めてそういってくれた人。
そんなことないよ、というのではなく、
そういう気持ち分かるよ、と言ってくれた人。
どうして、人の気持ちが
こんなに分かるのかと思ったら、
私なんかより、もっと複雑な家庭で
育ったと教えてくれた。
「人に気持ちを理解してもらえないのは、辛いことだね。
でも、春ちゃんは、良かったね」
「良かった?」
そう言われて驚いた。
人より家庭環境で劣っている
と感じたことはあっても、
良かったね何て言われたことも、
思ったこともなかったから。
「お祖父さんがいて。俺には、味方になってくれた人も、
理解してくれた人も無かった」
「そんなこと無いでしょ?」
私は、彼の答えを聞くのが怖かった。
誰もいないなんて、言われたら、
どう受け止めればいいのだろう。
「ああ、理解してくれた人なら居た。君だよ」
「なんだ、良かった。
誰もいないなんて、
言われたらどうしようかと思った」
「心配してくれるんだ。
俺には、そういう些細なことが本当に嬉しい」
「心配するよ。それは。
大事な先輩だし。同僚だし…
友達は年上の人に失礼か」
「他には?一番聞きたい言葉が入ってない」
「どんな?」
「もちろん恋人」