数時間歩き回り、もはや足の感覚がなくなっていった頃、
森の草木が不自然に擦れ合う音が聞こえた。
風が吹いているわけでもないのに揺れる木々。
獣だろうか。魔物だろうか。
どちらにせよ明らかに近づいてくる。
(いやっ……)
少女は恐怖で声も出ず、その場でうずくまった。
しかし獣の野蛮な声でも、魔物の恐ろしい声でもなく、
聞こえたのは優しく温かみのある声。
「こんなところにいたのか。帰るぞ」
少女にとっては聞いたことのないぶっきらぼうな声。
ハッとして顔を上げると、漆黒の髪の男が近づいてきた。
聞いたこともない声に、
見たこともない姿。
けれどもなぜか安心感があり、硬直していた身体には恐怖がなくなっていった。
男は自分が着ていた上着で少女の身体をくるみ、ひょいと抱き上げた。
「身体が冷えているな。寒かっただろう」
逆光でほとんどよく見えなかったが、
髪の黒よりもほんのり青い瞳だけは良く見えた。
男の胸の中は暖かく、一気に睡魔が襲ってきた。
「……あなたは……だぁれ……?」
……
「……んん……」
(……寝て……た……懐かしい夢……)
まだ開ききっていないまぶたを擦りながら、
窓にかかってあるカーテンをめくった。
城を出たときよりも太陽が西に傾いている。
(あ。この森……)

