そんな時、ふとユアンの目に荷物の端にきちんと置かれてある、見慣れた衣服がとび込んできた。


「フローリア様の医官衣を持って行くのですか?」


「ええ。母様の形見だから、御守り代わりにね」



ステラの母―フローリアはラズラエザ王宮の専属医官だった。


フローリアがまだ医官だったとき、ジェラール王との間に新しい命を授かったのだが、

あまりにも身分の差がありすぎたため、

ジェラール王は違う娘を王妃にし、フローリアを側室に迎えたのだ。



この時授かった命こそが第一王女ステラ。


のちに王妃との間に産まれた子が第一王子ユアンであった。



「そんな顔しないで。ラズラエザに帰って来られないって決まったわけじゃないのよ」



事実、ステラがいなくなればユアンが王太子の役目を担うだろう。


5年以内に帰って来られなければ国王にもなるだろう。



「この国の王には姉上が相応しいですよ……姉上の魔力は父上をも超えるではありませんか」



魔力を有する者が多いこの国では、伝統的に国王は次世代の王族の中で

一番魔力の高い者を王太子とすることがあたりまえとなっていた。


正室の王子であるユアンよりも側室の王女であるステラが王太子となったのもそのためであった。



「でもね、ユアン。私は魔力だけが王に必要なものだとは思わないのよ。ラズラエザの民の信頼があってこその王じゃない。ユアンは十分王にふさわしいと思うけど」



「姉上……縁起でもないこと言わないでください……」