東に向かって馬車と船を乗り継ぐこと約十日。

ステラ一行はようやくヴェルズの王都へ辿り着くことが出来た。



低い丘の上にあるヴェルズ城は、ラズラエザ城の何倍もの大きさを誇り、

まるで大国を象徴するかのように存在感を放っていた。



「ラズラエザ王国王太子、宰相ご一行のご到着でございます」



城門番のその合図でベルが一斉に鳴り響く。


王宮の前で馬車から降りると大扉が開き、中で数名が頭を下げていた。


先頭に立っている男は右目に黒い眼帯をつけている。


「ヴェルズ国王直属従者のレオ・ミシュランと申します。この度はこちら側の要求をお受けいただきありがとうございます。ステラ様滞在期間中の案内役も兼ねておりますので、何なりと私にお申し付けください。控えノ間で少し休まれてから、ヴェルズ宰相のスカーレット公爵と調印式を行っていただきます」


レオと名乗ったその男の隣で、広大な城を見渡しながら長い廊下を進み始めた。



廊下を歩いている途中、きらびやかな衣装を身にまとい、ステラを見てはヒソヒソと話し出す女性をよく見かけた。



「レオさん。あの女性たちは……?」


レオはステラの視線の先を見ると、かすかに息をこぼした。


「後宮の姫君たちですね」

「あ……ヴェルズには後宮があるのですか?」


ステラの不思議そうな問いかけに対し、レオは、ああ、と理解したように話を続けた。